活動記事

2021年12月10日
令和3年度 第2回地域ITS研究会
日 時:令和3年12月10日(金)14:00~17:00
場 所:北海道大学学術交流会館第1会議室 ※オンライン配信を併用(ZOOMによる配信)

 

講演1
視程障害時における除雪車運行支援技術に関する研究について
新保 貴広 様(国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所 寒地機械技術チーム 研究員)

吹雪による視程障害発生時の除雪車運行支援技術(自車位置推定技術・周囲探知技術)の開発についてご講演いただきました。その概要を以下に記します。  

近年、吹雪による通行止め回数や時間が増加傾向にある。一般的に、道路除雪は天候回復後に実施されるが、悪天候下においても安全な除雪作業が可能となれば、通行止めの早期解除に貢献できる。そこで、視程障害発生時にも除雪作業を可能とする技術として、磁気マーカを用いた自車位置推定技術およびミリ波レーダを用いた周囲探知技術を開発中である。

磁気マーカによる自車位置推定技術は、道路に埋め込んだマーカを車両底部に取り付けたセンサーで読み取るものであり、GNSS(全球測位衛星システム)が苦手とする位置測位箇所(トンネル内部・高架下)において有用である。また、「気象の影響を受けにくい」という特長がある。ドライバーの視界が遮断された状態で実験を行った結果、直線・曲線道路ともに一定の測位精度で走行することができた。なお、磁気マーカは、令和2年改正道路法において、自動運転車の運行を補助する施設として道路附属物として新たに位置づけられた。

一方、周囲探知技術の開発において使用されるミリ波レーダも、磁気マーカ同様、気象の影響を受けにくいという特長がある。市販車に使用されているミリ波レーダを除雪車に搭載した際の検知精度について試験した結果、視程障害発生時の検知距離は、視程良好時に比べると劣るものの、100m以上手前から前方車両の探知が可能であることが示された。

これらの技術の完成は、通行止めの早期解除のみならず、除雪作業の効率化、立ち往生車両の早期救出、緊急車両の先導にも役立つ技術である。

質疑応答では、磁気マーカと車両底部のセンサーまでの距離と測位精度の関係について、気象条件や雪質の違いに伴うミリ波レーダの反射強度の関係について等の質問があり、活発な議論がなされました。


講演の模様

質疑応答
 
講演2
札幌型観光MaaSとしての「札Navi」の取り組みについて
石田 崇 様( (一社)さっぽろイノベーションラボ)

札幌市における観光客の周遊の極大化を促すため、観光客の個々のニーズに応じた観光情報と移動情報を一元的に提供できるしくみとして取り組んでいる札幌観光MaaS「札Navi」の取り組みにつてご紹介いただきました。

札幌市郊外部には広範囲に渡って魅力的な観光地が存在しているものの、土地勘がない観光客がこれらにアクセスするためには公共交通手段の情報提供が不可欠となっています。一方、都心部にも観光施設が集中していますが、特にバス交通の利用においては、どのバスに乗ればたどり着くかがわかりにくい状況にあります。

このような背景のもとで、"札幌型観光MaaS推進官民協議会"を立ち上げ、国土交通省の「日本版MaaS推進・支援事業」において、札幌型観光MaaS事業「札Navi」の実証実験を2021年2月に実施しました。 「札Navi」では、観光スポットとトライブ(観光属性カテゴリ)を紐付けたDBと、利用者属性(性別・年齢・周遊可能時間・旅の目的など)をAIで判定・マッチングし、観光地をリスト表示します。そしてユーザーが選択した観光地を周遊するための複数の公共交通を利用したルートを提案するものです。実証実験の結果、利用者からも一定の評価をいただいたとのことです。

今後は、実証実験でユーザーから寄せられた機能改善要望に応えていくとともに、デマンド交通機能の実証、シェアサイクルとの連携、予約・決済機能の実装などに取り組み、2022年以降のサービス開始を目指しているとのことです。

質疑応答では、バスや観光施設の混雑状況の反映や気象予報との連携した情報提供の可能性や、飲食店との連携、既存の旅行サイトとの差別化などの質問があり、活発な議論がなされました 。


講演の模様
 
講演3
最新の自動運転技術の動向と社会実装に向けた課題について
奥間 保胤 様(株式会社CDS経営戦略研究所 シニアストラテジスト,IoT/ICTシステム開発室室長)

最新の自動運転技術の動向と社会実装に向けた課題と題して、"自動運転に必要な要素について""社会実装する上で議論すべき課題"などについて、これまでの技術コンサルティングの経験から幅広い視点でご講演をいただきました。

一般に自動運転はレベル1からレベル5まで定義されているが、例えばレベル3は自動運転システムを常に人間が監視し必要に応じてオーバーライドしなければならない条件付自動運転である。この例では、システムが制御することができない緊急時において、ドライバーには常に適切な対応が求められるが、これは既存の運転技術とは異なるものであり、ドライバーにおいては新しい運転技術が求められることとなる。自動運転の社会実装には、車両技術の進展だけではなく、社会やドライバーがそれを受容できる環境づくりについても、今後議論していくことが必要になるとのことです。

自動運転社会を実現するために必要な要素について、車両技術や自動運転技術のみならず、道路および情報インフラをはじめとした社会基盤のほか、既存の公共交通との連携/住み分け、車両メンテナンス、住民理解・社会的受容性などがあげられるとのことです。

また、社会実装に向け現時点で議論が足りていない多くの課題について、いくつかの事例を交えてご紹介いただきました。社会実装していくためには、自動車メーカーだけではなく、街づくりとして社会全体で考えていく必要があり、今後十分な議論をしていかなければならないとのことです。 

最後に、世界的にみて自動運転の実証実験が早い時期から盛んに行われている地域は、北海道と同緯度に多く分布しており、積雪寒冷地での自動運転について強い興味を持つ自動運転先進地は数多くあり、日本の中でも北海道がけん引役となり成功事例を作っていくことが期待されているとのことです。

質疑応答では、自動運転の実現に向けた議論の進め方、世界の積雪寒冷地における成功例、今後の自動運転の展開等についての質問があり、活発な議論がなされました。


講演の模様