活動記事
「吹雪にともなう交通障害に関連する話題」と題して、吹雪による交通障害のリスク軽減に向けた、気象学分野における最新の研究成果についてご講演いただきました。
吹雪の危険度予報を行う上で大きな課題となるのが、数値気象予報の水平解像度と、実際の吹雪現象のスケールとの間に存在するギャップです。たとえば、一般的な数値気象予報の水平解像度は5km程度である一方で、吹雪現象は水平スケールで100m程度と非常に小さいため、スケールの違いをどう埋めるかが重要な研究課題となっています。本講演では、このスケールギャップを埋めるため、マクロ(広域)およびミクロ(局所)両視点からのアプローチをご紹介いただきました 。
マクロ視点での研究
マクロ視点では、広域的な気象状況と吹雪の発生傾向との関係に着目し、吹雪ポテンシャルを算出する手法が紹介されました。吹雪ポテンシャルは、風速と降雪強度から推定される飛雪流量や推定視程といった指標により表現されます。
特に注目すべき成果としては、数値気象データに対して水平1km解像度まで力学的ダウンスケーリング(空間詳細化)を施すことで、吹雪ポテンシャルの空間分布をより詳細に捉えることが可能となりました。さらに、過去の吹雪発生履歴に基づいて天気図パターンを分類し、それぞれのパターンにおける吹雪ポテンシャルを推定する手法も紹介されました。北海道内における吹雪ポテンシャルマップを作成したうえで、江別や弟子屈などの地域において、吹雪が発生しやすい典型的な天気図パターンを同定しました 。
ミクロ視点での研究
一方、ミクロ視点では、風に乗って雪粒子が飛散する運動を数値的に再現する手法が用いられています。講演では、格子ボルツマン法(LBM)や粒子法といった数値計算手法が紹介されました。
LBMは並列計算が容易であり、複雑な地形や構造物による境界条件を含む吹き溜まり現象の再現に適しているとされます。さらに、雪粒子の軌跡を並列的に計算し吹雪粒子の動きを再現することで、実際に観測される吹き溜まり分布を定性的に再現することにも成功しています 。
講演後の質疑応答では、紹介された粒子法やLBMを、車両の通過後に発生する地吹雪の再現に向けた応用可能性、吹雪ポテンシャルの空間分布の精度向上に向けて、力学的ダウンスケーリング以外のアプローチに関する意見交換が行われました。


「美瑛町における持続可能な観光の実現に向けた取組について」と題して、農業と観光のまち、人口約9,500人の美瑛町において、近年の観光客の増加や旅行行動の変化に伴うオーバーツーリズムの現状や対応策にについてご講演いただきました。
美瑛町は北海道のほぼ中央部に位置し、車で新千歳空港から2時間30分ほど、旭川空港から15分ほどと東京へのアクセスよいまちです。農業の営みによって作り出された広大でなだらかな丘陵地帯が魅力で、「丘のまちびえい」とよばれる農業観光を見るために年間240万人を超える多くの観光客が訪れているとのことです。 一方で、観光客の増加や旅行行動の変化に伴い、私有地への立ち入りや路上駐車、交通渋滞などのオーバーツーリズムが発生し、地域住民の生活に支障を来す状況になっているとのことです。
美瑛町を代表する観光スポットとして、「美しい丘の風景」や「白金青い池」、「びえい白金温泉」、「白ひげの滝」などがあります。 白金青い池に向かう北海道道では交通渋滞が発生し、ピーク時には5kmを超える渋滞となっていました。白金青い池の先にはびえい白金温泉があり、宿泊客、地域住民の交通への支障や救急車や消防車などの緊急車両に支障を来すなど、大きな課題となっていました。この交通渋滞を解消するため平成30年に北海道道と並行して白金青い池に向かう町道を整備され、北海道道の交通渋滞はある程度解消されたものの、課題解消には至らなかったため、今年、さらに道道への案内看板の設置や駐車場への右折入場禁止(ポール設置)、駐車場内の対策等を実施し、課題解消の取組を継続して続けられているとのことです。 また、セブンスターの木や十勝岳望岳台など観光スポットにおける混雑やクリスマスツリーの木など駐車場がない箇所への路上駐車など、日常生活に支障を来しているとのことです。さらに美瑛町の多くの観光スポットは、農地に隣接しており、農地や私有地への立ち入りなど農作物の生育阻害や、外部から持ち込まれる細菌等による土壌汚染など、美瑛町の重要産業である農業に対する大きな脅威となっているとのことです。
これらの課題に対し、AIカメラによる観光地混雑状況可視化システムの設置や混雑状況マップでのリアルタイム共有等の対策を実施し、交通渋滞の解消を図るほか、侵入検知カメラによる農地や私有地への立ち入りを抑制しているとのことです。さらにパークアンドライドの推奨、臨時駐停車禁止の実施、観光パトロール等、観光スポットに合った対策を継続して実施していかれるとのことです 。
質疑応答では、観光による経済効果と対策費用や、駐停車禁止の規制、特に効果があった対策、白金青い池の交通誘導等に関する質問があり、活発な議論がなされました。


「上士幌町におけるICTに関する取り組みについて」と題して、上士幌町で行われているICTに関する様々な取り組みについてご講演いただきました。 上士幌町は東京23区と同等の広大な面積に人口約5,000人が暮らしていますが、市街地に4,000人、市街地以外の農村地域に1,000人が居住する人口分布であることから、農村地域を支えるための移動と物流について課題がありました。 その課題を解決するためのICTの取り組みについてご紹介いただきました。
(1)予約制福祉バス(デマンドバス)
上士幌町では20年かけて市街地の公共施設や商業施設の集約化を行ってきたことから、市街地と農村地域をつなげるためのデバンドバスの実証実験を2022年度より2年間行ってきました。デマンド化によりバスの空き時間が可視化できたため、交通事業者に物流サービスを担ってもらう「貨客混載」の実証実験を行い、例えば、農村地域の居住者が町内で購入した商品をバスに載せ自宅への配送することで空き時間を有効活用する取り組みを行ってきました。その発想を逆転し、物流事業者に交通サービスに役割を担ってもらう「客貨混載」の実証実験を2020年度に行い、再度2024年度に自家用有償旅客運送制度(公共ライドシェア)を活用し、実証実験を行いました。これらの実証実験を通じて、高齢者のデマンドバスに対するニーズをはじめ、町民の移動と物流における様々な効果や課題を検証することができたため、将来的なサービスの実装への可能性を検討中とのことです。
(2)自動運転バスによる実証実験
高齢者らの地域の"足"を確保する取り組みとして、上士幌町では市街地を対象に2017年度より自動運転バスの実証実験を開始し、2019年度にレベル2運行(特定条件下での自動運転機能)を国内で初めて実施し、さらに2021年度に国内で初めて雪道運行を実施したことを踏まえ、2022年より通年で週3回・レベル2運行を行ってきました。加えて、路車協調や信号協調による交差点等の安全走行に関する実証実験を行ってきました。そして2025年度は市街地ルートのうち道の駅循環線は100%レベル4運行(特定条件下における完全自動運転)を目指しているとのことです。
また、2024年度はぬかびら地区と市街地をつなぐルートを対象に、自動運転バスのGPS通信環境が不安定なトンネル内を走行し、常時接続可能な通信システム環境の検証を行っているとのことです。
(3)ドローンを活用したハイブリッド物流
上士幌町の農村地域など、陸送で非効率なエリアや場所への配送をドローンに置き換えることで町内全体の物流効率向上を目指す事業です。町内に設置されたドローンデポに集まった荷物の様々な情報から最適な配送ルートを選択する輸配送管理システムを活用し、トラック・ドローンという配送手段に割り当て配送を実施しています。月2,000個の荷物をドローンと陸送の最適化分析し配送を行った結果、すべて陸送で配送を行うよりも1.5~2.5倍に輸送効率化していることがわかりました。現在ドローンルートは50ルートが開通済みのため、100ルート構築を目指し、事業を拡大していく予定とのことです。そして、陸送とドローン配送のベストミックスを構築し、ヒト・モノの移動コスト全体を削減していくことを目指しているとのことです 。
質疑応答では、デマンドバスの持続可能性、自動運転バスのレベル4運行における課題についてなどの意見交換がなされ、活発な質疑応答が行われました。


