活動記事

2024年7月4日
令和6年度 第1回 北海道ITS推進フォーラム講演会
日 時:令和6年7月4日(木) 15時30分~17時00分
場 所:かでる2・7 かでる1060会議室およびオンライン(Zoom)

 

講演
ポストコロナと北海道のモビリティ
有村 幹治 様(室蘭工業大学大学院もの創造系領域教授)

「ポストコロナと北海道のモビリティ」と題して、以下の視点から最新の取組および研究成果を交え、北海道のモビリティについてご講演いただきました。  

 

  1. ポストコロナの時代と北海道  
  2. 計画技術とDX  
  3. 新しい移動技術と社会実装  
  4. GX/SDGsと交通  
  5. スマートシティとコンパクトシティの融合に向けて

 

1.ポストコロナの時代と北海道

ポストコロナ時代における北海道の課題として、人口減少の問題に焦点を当て、1995年には約570万人だった北海道の人口が、2020年には522万人まで減少していることが報告されました。さらにコロナ禍の5年間にフォーカスすると15万人が減少しこのペースは、旭川市の人口の半分、室蘭市の倍の人口が失われたことに相当します。

高速道路や鉄道ネットワークの整備についても言及され、高速道路が地域全体でのトラフィック機能を向上させる一方で、地域マーケティングを踏まえたインターチェンジの配置計画の重要性が説明されました。また、鉄道ネットワークについては、維持困難な線路や新幹線の開業遅延などの課題が挙げられ、並行在来線のほか高規格道路も含めどのようなデザインを考え、描いていくかが重要とのことです。

また、コロナ禍の影響で在宅勤務が増え、人々の行動パターンが変わったことについて、モバイル空間統計を用いた人流データ分析結果が報告されました。今後のポストコロナ時代には、オンラインによるミーティングが定着するとともに、ワーケションといった新しい働き方が生まれ、移動に対する変容が起きていくことが示唆されました。

 

2.計画技術とDX

計画技術の進化とデジタルトランスフォーメーション(DX)の導入が地域社会にどのように貢献できるかについて、室蘭市を事例に詳細にご説明いただきました。

室蘭市での津波避難訓練の事例に触れ、GPSを利用して避難に要する時間を定量化する実証実験についてご紹介いただきました。この実証実験では、個人が思う避難時間と実際に避難に要した時間のギャップを明らかにするとともに、避難行動の初動を早くするための方策について検討がなされているとのことです。

また、室蘭MaaSプロジェクトについてご紹介いただきました。人口減少に対応するために、公共交通カバー率を評価し、将来の人口減少を見据えた新しいネットワークデザインの必要性が示唆され、AIオンデマンド交通システムの実証実験を行っているとのことです。この実証実験の中では地域住民の移動需要に応じたタクシーの最適配置が検討されました。また、住民の利用料金に対する反応も調査され、今後の導入に向けた課題が明らかになりました。

このような計画技術を支えるための各種データ(OD調査、モバイル空間統計、ETC2.0など)はそれぞれに得て・不得手があり、それぞれの特徴を掛け合わせることでより適切に移動の現象を評価できるようになることで、ミクロ・マクロ両視点での分析が可能となるとのことです。

 

3.新しい移動技術と社会実装

自動運転技術やバッテリーEVなどの新しい移動技術が社会にどのように実装されているかについて、海外事例を合わせご紹介いただきました。

中国・シンガポールでの空飛ぶクルマのデモンストレーションも紹介され、将来的に空飛ぶクルマが交通手段として実用化される可能性についても言及されました。北海道においても、高速道路上のSA・PAと連携するなど、地方都市の交通インフラが大きく変わることについての期待と将来性について示唆されました。

 

4.GX/SDGsと交通

グリーントランスフォーメーション(GX)と持続可能な開発目標(SDGs)の観点から、交通分野が日本全体のCO2排出の約2割を占めることを指摘し、この分野での脱炭素化の重要性を強調しました。

具体的な対策として、代替燃料の使用や燃費の向上、車の保有率を下げる、都市計画による移動距離の削減などが挙げられました。また、公共交通へのシフトも重要な対策とされています。これらの対策を地域の特性に応じて実施することで、持続可能な交通システムの構築が目指されています。

さらに、今年3月に閣議決定された第九期北海道総合開発計画では、ゼロカーボン北海道が新たに掲げられています。再生可能エネルギーのポテンシャルの高い北海道の生活パターンの中で、どのように脱炭素化していくかについて、我々がデザインしていくことが目標の一つとなるとのことです。

 

5.スマートシティとコンパクトシティの融合に向けて

スマートシティとコンパクトシティの融合が目指されています。スマートシティはデータ連携による各種サービスの向上を図り、コンパクトシティは都市施設の集約を進めます。ポストコロナの時代において、フランスのパリやオーストラリアのメルボルンでの15分都市構想などをはじめとしウォーカブルな都市づくりが進められており、徒歩や自転車での移動が容易な都市計画が重要とされています。

これを踏まえ、札幌市においても15分間でアクセスできる施設のカバー率を評価する調査が行われ、公園や金融機関などの施設の分布状況が分析されています。また、苫小牧駅前や真駒内駅前の再開発プロジェクトにおいても、ウォーカブルな街づくりが進められています。

 

最後に

質疑応答では、室蘭市でのタクシー実証実験に関する質疑のほか、目指すべき都市の姿についてフランスのモンペリエを例に挙げつつ日本の実情に合わせた進化が必要であること、さらにグリーンスローモビリティが地域の魅力向上に寄与する可能性など、多岐にわたる意見交換が活発に行われました。

本講演では、ポストコロナ時代の北海道における持続可能な交通インフラの実現に向けた具体的なアプローチを示していただき、最新の技術と理論を活用し地域の特性を最大限に活かした都市計画・交通計画の重要性について教えていただきました。北海道の未来を考える上で非常に有益なご講演となりました。




講演の模様


総会の模様