活動記事

2023年1月20日
令和4年度 第2回地域ITS研究会
日 時:令和5年1月20日(金) 14時00分~16時45分
場 所:TKP札幌駅カンファレンスセンター カンファレンスルーム2A
(札幌市北区北7条西2丁目9 ベルヴュオフィス札幌)およびオンライン(Zoomによる配信)

 

講演
安全な自律移動モビリティ実現における高精度3次元地図データの役割
雨谷 広道 様(ダイナミックマップ基盤株式会社 執行役員(事業開発担当))

自動運転車両の走行に必要な高精度3次元地図の役割やその活用方法についてご講演をいただきました。

スマートフォンの地図アプリに代表されるように、我々が普段目にしている地図は、人が見るための地図であり、平面的に見やすく構成されています。しかし、本来、地球は湾曲しているので、平面で表現するとズレが生じます。

ダイナミックマップ基盤㈱で作成している高精度3次元地図データ(HDマップ)とは、自動運転を目的とした地図で、車がセンサーで周辺情報を収集し、実空間でどこにいるのかを認識し、正確に把握することが目的であり、次世代モビリティ向けのマップと言えるとのことです。

ダイナミックマップ基盤㈱では、すでに日本国内の高速道路及び国道の約3万kmの他、アメリカの一般道64万kmにて、高精度3次元地図データ(HDマップ)を整備しており、日本やアメリカの自動車の一部に搭載され、ハンズオフの自動運転が可能になっているとのことです。

また、この静的情報(高精度3次元地図データ(HDマップ))に、周辺の車両や歩行者の情報である「動的情報」、交通事故や渋滞などの「準動的情報」、交通規制や道路工事の予定などの「準静的情報」をインプットすることで、リアルタイム性の低い情報から高い情報をインプットしたものを「ダイナミックマップ」と総称しているとのことでした。これらのダイナミックマップの基盤整備に取り組んでいるとのことで、これらの整備が進むと自動運転のレベル4の走行が可能になるとのことでした。

また、静的情報の自動運転以外への活用方法として、事故調査における活用があるそうです。これまで調査員が現実空間で事故発生現場の検証を行っていましたが、静的情報を活用し、デジタル空間で検証を行うことで、渋滞の発生や調査員の危険を回避することが可能とのことでした。さらに、除雪車の自動運転に向けた支援への活用方法もあるとのことでした。

質疑応答では、地図データの更新頻度やその方法、ARを用いた除雪車へのマップ提供の開発状況などについての質問があり、活発な議論がなされました。


講演の模様

質疑応答
 
話題提供1
i-Snowの取組について
在田 尚宏 様(北海道開発局 建設部 道路維持課 維持第1係長)

「i-Snowの取組について」と題して、除雪現場の省力化による生産性・安全性の向上に関する取組プラットフォームであるi-Snowの取組についてご講演をいただきました。

北海道開発局では、令和4年度現在6,854kmの国道延長を管理しており、除雪基地153箇所、除雪機械1,070台の除雪体制で除排雪作業を実施しています。しかし、北海道では積雪寒冷地域特有の暴風雪などの影響による国道通行止めの多発、令和3年度は札幌市や近郊地域での短時間降雪(大雪)の発生など、冬期災害の課題のほか、近年では道路除雪の担い手減少・高齢化といった課題を有しています。

これら冬期の課題を解決していくため、除雪現場・技術等に関する横断的な連携・情報共有の場として、産学官(民)が幅広く連携して取り組むプラットフォーム「i-Snow」が設立されました。

平成28年度の発足からこれまでに様々な取り組みが実施されています。当プラットフォームでは、北海道開発局道路維持課・機械課に加え、国立研究開発法人 土木研究所 寒地土木研究所に参加していただき「除雪機械の高度化推進グループ」として取り組んでおり、取組の主な柱として「ロータリ除雪車の投雪作業の自動化」と「吹雪時の映像鮮明化技術の検証」に取り組んでいるとのことです。

ロータリ除雪車の省力化としては、これまで2名乗車体制での作業を、準天頂衛星「みちびき」による高精度位置情報(センチメートル級)と高精度3Dマップデータを活用した運転支援ガイダンスと投雪作業の自動化を組み合わせたシステムおよび周辺探知技術による安全対策により、1名乗車体制での除雪作業を可能とする取り組みです。平成29年度に実証実験に向けた意見交換会を実施し、平成30年度~令和元年度に冬期通行止めにより、車両の通行の影響や、道路附属物など障害物の少ない国道334号知床峠での実証実験、令和2年度からは車両の通行がある中で、障害物も多い国道38号狩勝峠での実証実験が行われました。これらの実証実験を経て、令和4年度の冬から国道334号知床峠(網走側)で「除雪装置自動制御付ロータリ除雪車」を実働配備し、3月から開始される除雪作業において、稼働を予定しているとのことです。

吹雪時の映像鮮明化技術の検証としては、平成30年度に市販の映像鮮明化処理装置により予め録画された吹雪映像の鮮明化処理を実施し、有効性を確認しました。令和2年度まで、実運用に向けて映像鮮明化処理装置を実際に車両へ搭載した試験の実施と機器の仕様を作成し、令和3年度から全道で配備を開始し、令和4年度は全道で100台の追加配備(合計119台)となっているとのことです。

さらに凍結防止剤散布作業の自動化にも着手され、凍結防止剤散布作業支援システム(AIS3)を令和3年度から試行しており、令和4年度は函館・稚内へ追加配備を行い全道(合計10台)で試行されるとのことです。

質疑応答では、画像鮮明化による負担軽減や新たに配備される機械の仕様についての質問があり、活発な議論がなされました。


講演の模様

質疑応答
 
話題提供2
雪氷対策高度化の取り組みについて
阿部 勝義 様(東日本高速道路株式会社北海道支社技術部技術企画課 課長)

「雪氷対策高度化の取り組みについて」と題して、NEXCO東日本北海道支社で取組まれている、雪氷対策の取組み「ASNOS」の中から2つの取組み事例について話題提供をいただきました。

1つ目として、"準天頂衛星を用いたロータリー除雪車の自動化"についてご紹介いただきました。

この取組みは、熟練オペレータの高い技術と経験を引き継ぎ、若手オペレータが1名でも操作できる除雪車を開発すること、また吹雪による視界不良などの悪天候下においても、安心して操作ができる除雪車を開発することを目的としているとのことです。

特徴としては、準天頂衛星(みちびき)の位置情報を受信するとともに、ジャイロセンサ(IMU)で除雪車の姿勢を把握し自車位置を補正することにより数cm単位の精度を確保し、高精度3次元地図を組み合わせることで自動操舵(自律走行)を実現しています。またオペレータが実際に行ったシュータ等の動きをティーチングデータとして記録し、それを再現する技術が用いられているとのことです。

平成29年度から取組を開始し、令和4年度で開発を終了する予定で、これまでの実証実験で得られた課題を解決し、令和5年度からは実道配備を予定しているとのことです。

2つ目として、"遠隔操作による除雪作業の効率化"についてご紹介いただきました。 この取組は、離れた現場にある除雪用の重機を、通信回線を通じて遠隔操作を可能とすることで、オペレータの移動負担軽減や労働環境の改善を目的としているとのことです。

特徴としては、作業にかかる荷重によって生じる車体の傾きや回転を、遠隔操作卓のシートで感じられるように工夫を行うことで、より遠隔操作がやり易くなっているとのことです。

令和2年度から油圧ショベルの遠隔操作の取組を開始しており、令和4年度冬期からは雪捨て場における最も稼働時間の長いブルドーザの遠隔操作に着手し取組の幅を広げ、さらなる効率化を進めるとのことです。  

質疑応答では、ロータリー除雪車自動化や遠隔操作技術の具体的な制御内容についての質疑や、今後の展開について意見交換が行われました。


講演の模様
 
話題提供3
気象レーダを用いた吹雪時の視程のリアルタイム推定
大宮 哲 様(国立研究開発法人 寒地土木研究所 寒地道路研究グループ 雪氷チーム)

寒地土木研究所の大宮様より、気象レーダの一つであるXバンドMPレーダを用いた吹雪時の視程推定に関する話題提供(研究紹介)がありました。

XバンドMPレーダは、元々、集中豪雨や局地的大雨を早期検知する目的で開発・整備されたものであり、時空間分解能が高い(データ配信までの時間:観測終了から約1分、更新時間は1分。250mメッシュ)ことが大きな特長の一つです。しかし、降雪時の観測精度は降雨時に比べると低いため、冬季のXバンドMPレーダデータはあまり有効活用されていませんでした。

この発表では、XバンドMPレーダ観測によって得られるレーダ雨量とドップラー速度から、吹雪時(降雪起因の吹雪のみ。地吹雪は対象外)の地上の視程を推定するプロセスが紹介されました。また、地上に設置された視程計による実測視程との比較結果や、視界不良時に発生した実際の交通事故を対象とした事例解析結果について詳しい説明があり、今後も視程推定精度の向上に向けたデータ解析を進めていく予定との事です。  

質疑応答では、上空の降雪粒子が地上に到達するまでの風による移流に関する質問や、他に設置されているCバンドMPレーダへの適用可能性、また、地吹雪時の視程予測が可能かどうかなど、今後の視程のリアルタイム推定に関する課題やニーズなど、活発な意見交換がされました 。


講演の模様

質疑応答